留学日記④
更新日:2021年02月06日
ハーバード大学について Harvard Universityはまさにユニバーシティである。その成り立ちは非常に複雑で、その専門性は多岐に渡っている。大学だけでも41の専攻があり、世界中の国から優秀な人材が集まっている。私が所属するハーバードメディカルスクールは日本で言う大学院の一つにあたる。その他の大学院としては経営を学ぶハーバードビジネススクール、法律を学ぶハーバードロースクール、行政を学ぶハーバードケネディスクールなどがある。 ボストン市内の色々な場所にそれぞれのキャンパスが点在し、メディカルスクールはロングウッドと呼ばれる場所に主に存在する。そして、そこには提携病院が集中している。主な提携5大病院は、Beth Israel Deaconess Medical Center, Brigham and Women's Hospital, Boston Children's Hospital, Dana-Farbar Cancer Institute, Massachusetts General Hospitalであり、うち4つがここロングウッドにある。それぞれの病院の建物内にメディカルスクールのラボが在る。同じ建物内でも違う病院名のラボが入り組んでいたりして非常に面白い環境である。さらに最先端の顕微鏡施設や、特殊な染色が可能な病理部門、動物実験センター、ロボットを使った高度な解析を行う部門などがその周囲に点在している。それらは全てハーバードコア施設としてまとめられており、ハーバードKEYを使えば、いつでもどこでも使用することが出来る。自分のラボでサンプルを作っては、それを持って5分圏内で歩き回り、解析し、自由に研究を進めていく、そんな毎日を研究者は過ごしている。モーニングセミナー、イブニングセミナーなども近隣で行われており、自分の興味のある分野に参加可能である。そしてそんな時は決まって、ピザとコーラが入り口にある可能性が高い。ノーベル賞受賞者の講演などはやはり人気が高く、混んでいる。それぞれの場所には、専門のスタッフがいて、使うためには必ず最初にトレーニングが入る。私自身、ドラッグスクリーニングのプロジェクトでは、一度に自動で数千の薬を同じ細胞に試すことができるロボットに携わった。そのトレーニングは複雑で、機械音痴の私にはハードルが高かったのを覚えている。このようなたくさんの施設・資源を共有し、連携することによって、次々と最高峰の研究がスピード感を持ってなされているのだなと日々、圧倒されている。また、お金の規模も日本とは桁違いである。ラボの研究資金なども数億円単位で動いている。そのおかげで研究者は好きなように、自分のアイデアを試すことができる。魅力のある設備、素晴らしい人脈、十分な資金があってこそ優秀な人材が集まってくるし、傑出した作品・才能が生まれる。そして、それらはまた新たな人脈や資金を呼び込む。このサイクルこそがハーバードの凄みであり、どこの企業や組織にとっても重要な目指すべき姿なのかもしれない。 さて、大学のシンボルマークについて話してみる。写真にあるように、盾の中に3つの本があり、そこに書かれている文字はVERITAS、日本語に訳すと『真理』である。真理が掴めてさえいれば、正しい行動ができ、正しい結果に繋がる。逆に、物事の真理を掴めなければ、行動や目標の方向性も曖昧になり、自ずとおかしな結果につながってしまう。真理こそ何者からも守られる存在であり、物事の根底にするべき貴重な存在である。そんな意味がこのシンボルマークには込められていると、詳しい同僚が教えてくれた。 医療における真理を考えてみる。まず、ある仮説に対して基礎研究が始まり、小さな真理だけを積み重ねて、仮説が解き明かされ、新たな真理が生まれる。その真理から治療法や薬剤が産み出され、臨床研究がなされ、治療ガイドラインが作成される。臨床医がそれを患者さんに届ける。これら多くのプロセスが誤りなく、全て繋がって初めて患者さんに適切な医療が提供されているということを決して忘れてはならない。時折、基礎研究と臨床を全く切り離して考えている臨床医がいたりするが、それは違うと思う。常に心がけなければいけない事は、今この病態や治療の真理はどこにあるのか、現在までに何が真理としてわかっていることなのかを知ることである。そこに、想像や思い込みが入る余地はなく、ましてや自分の経験などという極めてNが少ない事象を信じ切ることは非常に危険だ。ガイドラインでは対応しづらい難しい状況にある時こそ、論文から学び、多くの先人達が真理を積み重ねてきた上に現在の治療があることを意識するべきだ。留学で基礎研究に従事してみて、世界の研究者達がいかに本気で、毎日苦心した上で一つのエビデンスを創出しているかをまざまざと実感し、日本に帰ったら、その想いを大切に患者さんまで繋いでいきたいと思う今日この頃である。
長谷川 朋也
メディカルスクール
メディカルスクール前の憩いの場(ハーバードヤード)
大学の正門にて
シンボルマーク
ハーバードKEY
ある日の免疫学セミナー
ポスドクのための論文の書き方講座のセミナー